第110回「生命倫理専門調査会」および第9回「ヒト胚の取扱い関する基本的考え方」見直し等に係るタスク・フォースを一般傍聴してきました。

昨年、ゲノム編集に関する記事を書かせてもらったことを機に、生命倫理についての勉強を続けています。

書いた記事 → 命を操る技術にどう向き合う―― 「ゲノム編集」の現在地

先週の金曜日、合同開催された第110回「生命倫理専門調査会」および第9回「ヒト胚の取扱い関する基本的考え方」見直し等に係るタスク・フォースを一般傍聴してきました。

生命倫理専門調査会内閣府設置法総合科学技術会議令第2条第1項に基づき、総合科学技術会議に設置された専門調査会の一つ。「生命科学の急速な発展に対応するため、ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律第4条第3項に基づく特定胚の取扱いに関する指針の策定等生命倫理に関する調査・検討を行う」ことを職務とし、2004年には「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」を公表している。

つまり、この「基本的考え方」がさまざまな研究における倫理指針になっていたのです。ところが近年、遺伝子を自在に改変できる「ゲノム編集」という新技術が開発され、ヒト受精胚の研究にも適用され得る可能性がでてきた。そこで、この「基本的考え方」を再検討する必要がでてきた、というわけです。

生命倫理専門調査会では、2018年3月にヒト受精胚へのゲノム編集技術を用いる研究に係る考え方の報告書案をすでに公表しています。報告書では、現時点での臨床応用(医療に応用すること)は容認できないとしつつも、基礎研究については生殖補助医療に限って認める方針が示唆されました。現在は、有識者からのヒアリングを重ねながら、さらなる検討を重ねています。

参考記事 → 内閣府専門調査会 受精卵のゲノム編集で報告書 容認 基礎研究に限定、指針作成へ



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まずは国民全体で生命倫理についての議論を深めることが重要

今回の会議では、国立生育医療研究センター研究所長・松原洋一先生と、日本難病・疾病団体協議会理事会参与の伊藤たてお氏が有識者としてプレゼンテーションを行いました。

なお、当日のプレゼン資料や議事録はこちらから見ることができます。
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/haihu110/haihu-si110.html

今後策定される指針では、まず生殖補助医療に限定した基礎研究から認められ、その後「難病」や「遺伝病」、「がん」などに容認範囲が広げられる予定になっています。

遺伝生難病の研究・診療を行う松原先生は、受精卵へのゲノム編集が遺伝性疾患の治療の「福音」になる可能性に触れながら、医療の名のもとですでに受精卵に対するさまざまな医学的介入が行われている現実について言及。そもそも遺伝性疾患の定義にはさまざまな解釈があること、そして「ゲノムをいじる」という行為が孕んでいる優生学的な側面について示唆しながら、まずはこれらについて議論することの重要性を語りました。

伊藤氏のプレゼンテーションも、非常に印象に残りました。難病や遺伝病の当事者として、伊藤氏はヒト受精胚へのゲノム編集について、非常に強い懸念を表明しました。そもそも「先天性の難病は根絶すべきものなのか」「そこに優生学的な考えは含まれていないのか」という点については、もっと多くの国民が議論をすべきだと私も感じました。

さらに伊藤氏は、先日NHKクローズアップ現代で放送された「DIYバイオ」の潮流について強い懸念を示しました。伊藤氏は、

「大腸菌をゲノム編集できるキットが、ネットで簡単に変えるようになっていると知って驚いた。ゲノム編集がもつ倫理的な問題の議論が成熟する前に、一般社会ではどんどん「遺伝子改変」に対する技術的・心理的ハードルが下がっている。中学生の「ブロック遊びのようなもの」という発言に、恐ろしさを感じた」

と率直に語りました。また、ゲノム編集や遺伝子改変に対するメディアの報道姿勢についても苦言を呈しました。

「クローズアップ現代では、遺伝子改変のリスクや倫理的な問題について最後にほんと少しだけ専門家のコメントが出ただけだった。しかし、あの短いコメントでは、一般視聴者の耳には残らない。全体的に『すでに遺伝子改変はいつでもどこでもできる』ということを強調するような論調に、違和感をおぼえた。コメントしていた岩崎先生の話こそ、もっとしっかりと放送すべきだったと感じる」

伊藤さんはさらに、

「倫理的な問題を置き去りにしたまま、技術だけが社会に浸透していけば、かつてのような優生思想が再び世論に首をもたげるかもしれない。ゲノム編集でかんたんに遺伝子を切り貼りできるようになったら「いらない遺伝子は排除すればよい」という思想を持つものは現れないとも限らない。バイオの世界は性善説でよいのだろうか。1日も早く、こうした議論が多くの国民によってなされることを望む」

とも述べました。

その後、生命倫理専門委員の阿久津英憲先生(国立生育医療センター研究所生殖医療研究部長)から「現在、DIYバイオと呼ばれているものの多くはゲノム編集ではなく細胞培養がメインであり、そこには少し誤解がある」とのコメントがありましたが、伊藤さんは「一定の倫理観をもった研究者ではなく市井の人々が遺伝子改変に関与できることに怖さがある」と語りました。

メディアに関わる人間として、この問題を国民に広く伝え、議論を深めていくためにメディアはどうあるべきなのか、非常に考えさせられました。ゲノム編集は、技術進化のスピードがはやく、その本質をしっかり理解するのは記者でさえ大変です。そんな難しいテーマを、国民にわかりやすく、正確に伝えて行くには、私たちも常に勉強する必要があるでしょう。

受精卵の遺伝子を改変することは、私たちだけでなく、次世代にまで恒久的に影響をおよぼす問題です。これからも勉強を続けつつ、どんどん情報を発信していきたいと思っています。

なお、次回の「生命倫理専門調査会」および「ヒト胚の取扱い関する基本的考え方」見直し等に係るタスク・フォースは、8月30日(木)に開催予定です。
http://www8.cao.go.jp/cstp/kaisaiannai/2018/20180824seimei111.html

一般傍聴も可能なので、興味のある方はぜひ参加してみてください。

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